昨年のことになるが、設備メンテナンス業界に身を置くものとして、法制度について考えさせられる出来事があった。フロン排出抑制法の改正についてだ。
昨年の夏(6-8月)は、東日本(関東甲信・東海・北陸)において、1946年統計開始以来の猛暑だった。西日本でも第2位とのこと。そんな暑さが引き金となり非常に痛ましい事件が起きてしまった。舞台は岐阜市にあるY&M藤掛第一病院である。8月下旬、80代の男女の入院患者が5人も相次いで亡くなってしまった。
死因は熱中症によるものだが、この出来事が事故ではなく、事件として扱われてしまったところに違和感を感じた人も少なくないはずだ。事故ではなく、事件ということは猛暑という天災が直接の原因ではなく、何らかの人災によることが原因ということであるわけだが、死亡した患者がいたフロアのエアコンが故障しており、それが原因で熱中症に罹り亡くなってしまったという。
報道によれば、フロン排出抑制法で義務付けられた3年に1回の点検を怠っていたとのことだが、私はここに関しても違和感を覚えてしまったのだ。設備メンテナンス業界に身を置くものとして、フロン排出抑制法は機器の適正な動作を確認するようなものではなく、あくまで機器からフロンガスが漏れていないかどうかを確認することが法律の趣旨だと理解していたからだ。
今回のコラムを執筆するにあたって、事の顛末はどうなったのか新聞記事を読んでみたところ、新たに分かったことが二つ。
一つ目は、病院の過失によることが原因とするには、一筋縄ではいかない高齢者医療特有の問題があることが分かった。熱中症にも二通りあり、労作性熱中症と非労作性熱中症である。労作性熱中症は、若年〜中年者が屋外炎天下に運動中に罹るもので、体調の急変を伴う。しかし、非労作性熱中症は、高齢者が屋内で寝たきりでも罹ってしまうもので、体調は徐々に悪くなっていく。この徐々にというものが曲者で、対応や発見の遅れに繋がったのだろう。高齢者はエアコンを使いたがらない、そんな側面もある。高齢者医療を中心としていた藤掛第一病院は患者の容態が急変しても、即時対応を求めないとの承諾を家族や転院前の施設から得ていたとのことだった。
二つ目は、岐阜県の医療法に基づく病院の立ち入り検査項目にエアコンの維持や管理が設けられるようになること。これはあくまで、岐阜県独自の対応とのこと。フロン排出抑制法では範囲外の部分を、対応するということで実に先進的である。この猛暑続きの昨今、いずれ全国的な取り組みになるかもしれない。エアコンが人の命を左右する設備となるのであれば、止むを得ないことだろう。
事故にしろ、事件にしろ、亡くなる人、悲しむような人が出てはいけない。設備のプロとして、業界人として改めていろいろ考えさせられる事案だったとともに、我々が業務を行うことでこういった不幸が一つでも無くなれば幸いである。
関連リンク
フロン排出抑制法ポータルサイト
朝日新聞デジタル記事 「熱中症との関係、立証困難の見方も 5人死亡の藤掛病院」